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くらしにプラスレポート

母乳育児経験者が伝えたい、母乳育児のデメリット

原稿執筆者:消費生活アドバイザー 鈴木 亜希子 

 

 

昨年、今年と、私の周りは出産ラッシュです。

そのときに必ずといっていいほど話題にのぼるのは、母乳育児について。
私自身を振り返ってみても、出産前は、なんとか母乳で育てたいと思い、インターネットや図書館で調べ、出産後は母乳の出が悪く、さまざまなことを試した記憶があります。

 

あれから3年がたち、かなり客観的に母乳育児について考えられるようになってきました。
出産前後にいろいろと調べたのにもかかわらず、最近になってわかった情報もありますので、今現在、母乳育児について感じていること、調べたことを、私なりにまとめてみたいと思います。

 

常々感じているのは、母乳育児について、メリット情報はたやすく書籍やインターネットで知ることができるのに対し、デメリット情報は手に入りにくいということです。
インターネットで検索しても、ほんのわずかしかヒットしません。

 

そこで今回は、「母乳育児の喜びやたくさんのメリットを伝えたいわ」という感情をぐっとこらえて、
母乳育児、特に「完全」母乳育児のデメリットに焦点をしぼりたいと思います。

 

1. 日本と世界の母乳育児支援 

日本では、1975年に、母乳について以下の3つのスローガンが掲げられました。

①出生後、1.5ヶ月までは、母乳のみで育てよう。

②出生後、3ヶ月までは、できるだけ母乳のみでがんばろう。

③出生後、4ヶ月以降でも、安易にミルクに切り替えないで育てよう。

 

そして、1989年に、WHO/UNICEFが「母乳育児を成功させるための10ヶ条」を発表しました。

それは、

①母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること

②全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること   

③全ての妊婦に母乳育児の要点とその方法を知らせること   

④母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること   

⑤母親に授乳の指導を十分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても、母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること   

⑥医学的に必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと   

⑦母子同室にすること。赤ちゃんと母親が1日中24時間一緒に居られるようにすること   

⑧赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるままの授乳を勧めること   

⑨母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと   

⑩母乳育児のための支援のグループを作って援助し、退院する母親に、このようなグループを紹介する事

というものです。

これを継続的に実践すると、「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」と認定され、日本では、2004年現在で34施設が認定されています。

国としても、厚生省(当時)が93年からこれを後援しており、現在も引き継がれています。

 

2. 母乳育児と完全母乳育児 

いろいろ調べていると、母乳育児という言葉と完全母乳育児という言葉に出会いました。

母乳育児とは、文字どおり母乳で赤ちゃんを育てること。

完全母乳育児はというと、私が調べた限りでは、どこにもはっきりとした定義を見つけることはできませんでした。人によって、微妙にこの言葉の使い方がずれているようですが、一般的には、1.で紹介したWHO/UNICEF「母乳育児を成功させるための10ヶ条」の6番目を受けて、"基本的に、新生児には、糖水、人工乳など、母乳以外のものを一切飲ませないこと"と受け止められているようです。

私自身は、母乳の出が悪く、病院も「完全母乳育児」を推奨しているところではなかったため、すぐにミルクを与えられ、出生後2ヶ月までは、母乳とミルクの混合で育児をしました。

 

3. 私が考える母乳育児のデメリット 

◆ ミルクに比べて、授乳間隔が短い

病院では、3時間間隔で授乳するとよいとアドバイスをもらいましたが、実際は1~2時間ごとに欲しがったので、あげていました。出が悪く、飲んでいる時間も長いので、なんだか一日中おっぱいをあげているようで、睡眠不足に悩まされました。  

 

◆ 授乳室がない場合、公の場所でおっぱいをあげなければならない

赤ちゃんが急に泣いたり、授乳室がなかったり、授乳室が使いにくかったりなどで、公の場所で授乳しなければならない時がありました。よくおっぱいの部分だけ出る授乳用の服がありますが、私にとっては、あまり使い勝手がいいものではなく、ほとんど利用しませんでした。

何度も経験するうちに次第に、授乳しているときはおっぱいそのものはほとんど見えず、見えてしまうのはお腹だということに気づきました。そこで考えたのは、おっぱいをあげるときに服を斜めにまくり、お腹の部分はストールなどでおおうという方法。ストールは、赤ちゃんがお昼寝するときにも役立ちました。見えてもかわいいデザインの腹巻をして、授乳のときに広げてお腹全体を隠すという方法もおすすめです。 

 

◆ 人に預けにくい

(当然ですが)母乳は私しか出ないので、赤ちゃんをおいて外出できるのは1~2時間ぐらいのみという時期が続き、病気になった時にとても困りました。  

 

◆ おっぱいのトラブルがつきもの

母乳育児をしている友人たちは乳腺炎にかかって苦しんでいました。私は、赤ちゃんの歯がはえてから、乳首に細かな傷ができ、そこから雑菌が入り、乳首がはれ上がったことがありました。産婦人科で処方してもらった軟膏を使いましたが、その間も授乳は続いていたので、治るのに時間がかかりました。  

 

◆ 卒乳するのが難しい

実は今、これで悩んでいます。3歳児ですがまだ夜におっぱいをくわえています。何度か卒乳を試みてはいるものの、いきつ戻りつの繰り返し。はじめは、ほしがるまであげようと思っていましたが、毎日明け方近くになると十数キロの体が上に乗ってきて、半分裸の状態で横たわっていると、私自身の体調がよくありません。  

こうして考えてみると、デメリットは、ほぼ母親である私に関することといえるでしょう。

 

4. 母乳育児に「完全」がつくと、デメリットはぐっと深刻に 

実は完全母乳育児をできなかったことが、なんとなく心にひっかかっていたのですが、先日、思いがけず、「完全母乳育児」のリスクについて話を聞く機会がありました。それは、赤ちゃんに対する影響です。

リスクとは、出産直後、母乳の分泌量が少ないと、赤ちゃんの必要最低限の栄養が確保できず、栄養不足によって、重症黄疸や、低血糖症、頭蓋内出血などを引き起こす確率が高くなること。そしてそれは長期的に見ると、体や脳の発達障害をもたらす危険性もあるというのです。

これは、福岡市の「久保田産婦人科麻酔科医院」院長の久保田史郎先生が、開業以来21年間に取り上げた10,000人の赤ちゃんのデータをもとに出した見解で、非常に興味深いものでした。

そこで、経産婦にとっては身近である黄疸について、どうして黄疸がでるのか、防ぐ方法がないのか、もう少し詳しく紹介したいと思います。

 

久保田先生の見解は以下の通りです。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、本当に栄養が足りているのか? 

一般的に赤ちゃんは、10%(医師によっては15%)の体重減少は生理的現象とみなされている。しかしながら、新生児が健康に生きるために最低限必要とされる基礎代謝量は1日50kcal/kgなのに対し、産後3日間の初産婦は、平均すると、その1/2以下の母乳しか分泌していない。このことから、10%以上の著しい体重減少は、生理的現象ではなく、完全母乳による低栄養状態であるととらえるのが自然。 

 

重症黄疸は、栄養不足が原因 

この栄養不足が黄疸を強くすると考えられる。どうして栄養不足が重症な黄疸を引き起こすかというと、

① 新生児早期に極度の栄養不足の事態が生じた場合、赤血球が壊れやすくなり、黄疸のもとであるビリルビンが血中に増加すること。

② 胎便が出るのが遅くなり、胎便の中にあるビリルビンが血中に再吸収されるから。

の2つが挙げられる。  

 

重症黄疸は治療するものではなく、予防するもの 

重症黄疸には光線療法という治療法があるが、光線治療を必要とする重症黄疸の発生頻度は各施設で大きく異なる。

「完全母乳育児」に取り組んでいる施設では、重症黄疸が明らかに多く、光線療法が約5人に1人に行われているのに対し、久保田産婦人科では、早期に栄養を与えることによって栄養不足の状態を取り除いたところ、光線療法が必要だったのは、10,000人のうちわずか9人にすぎず、脳に障害を引き起こす危険性があるような重症黄疸は、1人も出ていない。

日本の年間出生数は約120万人だが、その中の10~15%前後の新生児が重症黄疸によって光線療法を行っていると推察される。早期に栄養を与えることによって重症黄疸を予防すれば、黄疸の治療やそこにかかる費用が節約できる。

 

重症黄疸のリスク 

光線療法により、重症黄疸は減少したが、重症黄疸による脳性マヒの頻度は相変わらず多いのが現状。生後数日間の栄養不足を補うことによって、重症黄疸はもちろん、その他の発達障害の危険因子である低血糖症やビタミンK欠乏による脳出血も予防できる。事実、久保田産婦人科では、低血糖症や脳出血の赤ちゃんは1人も出ていない。 

 

母乳育児について 

久保田産婦人科では、母乳育児には積極的に支援しているが、脳の神経細胞の発育に最も大事な生後数日間で母乳分泌量が少ない時には糖水や人工乳を追加するなど、母親一人一人の母乳の出方に応じて母乳育児を進めればよいと考えている。 

 

もっと詳しくお知りになりたい方は、こちらhttp://www.s-kubota.net/

 

5. まとめ 

出産を考えている女性は、主体的に情報を入手し、自分にあった産む場所、産み方、育て方を選んでいます。しかしながら、今回母乳育児をふりかえることによって、改めていろいろと考えさせられました。

 

それは、まず、こんなにも情報がたくさんあふれているにもかかわらず、妊産婦の判断の材料となる情報が偏っているということです。
特に最近になって初めて聞いた、久保田先生からの情報は、リスクの話であり、完全母乳育児をしている人すべてにあてはまることではありませんが、可能性として考えられる大事なデメリット情報は、私たち消費者にもっと提供されるべきではないでしょうか。

 

それから、私自身の反省として、出産・育児という大仕事を目の前にして、"何がいいか"を考えるバランス感覚に欠けていたところがあったと思います。自然に産み、完全に母乳で育てるのは、理想の形なのかもしれません。
そして、その理想は、"赤ちゃんのため"を思ってのこと。しかし、実際のところ、本当にそれが赤ちゃんのためなのかどうかわかりません。久保田先生のお話は、 "すべて自然なのが良くて、人工は悪"という極端な考え方が果たしていいのか、もう一度考え直す機会をくれました。

 

もし、また出産するチャンスがあったら、直接赤ちゃんに聞くことが出来ない分、母親として、理想にこだわりすぎるのではなく、様々な視点からの情報を求めて収集する力、それを吟味し、自分で軌道修正する力をもっとつけたいと思います。

 

きっとそのことが、自信を持って子育てをしていくことにもつながるのではないでしょうか。

 

参考資料

「安産と予防医学 THE OSAN」(久保田史郎著)

久保田産婦人科医院ホームページ:http://www.s-kubota.net/

日本母乳の会ホームページ:http://www.bonyuweb.com/