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知的財産権について

 原稿執筆者 消費生活アドバイザー 野口 博子

 

目にする機会の多い 「知的財産権」に関するニュース

 

'04年1月、青色発光ダイオード(LED)の開発者が、所属していた日亜化学工業に対して起こした特許権訴訟の一審判決で、日亜化学工業に200億円の支払いが命じられました。さらに2月には、人工甘味料アステルパームの製造法を開発した一人の元味の素社員が、味の素に特許権の対価支払い(特許はもともと発明者のものですが、それが会社の特許になるときは、発明者に「相当の対価」を払わなければならないと特許法で決められています。)を求めた訴訟の一審判決で、味の素に1億8935万円の支払いが命じられ、今までの特許に関する裁判ではなかった高額の判決が相次ぎました。

 

また、4月1日に施行された改正民事訴訟法により、特許権等に関する訴訟の一審は、原則東日本地域を東京地方裁判所、西日本地域を大阪地方裁判所がそれぞれ管轄し、控訴審は、東京高等裁判所が専属管轄することになりました。裁判所は、知的財産訴訟の高度化・複雑化に対応するため、「専門委員制度」を新たに導入し、大学、研究機関や企業などの研究者、弁理士などが就任しています。さらに現在'05年4月「知的財産高等裁判所」設立をめざした新法案が審議されています。

 

このように特許権をはじめとする「知的財産権」に関するニュースを目にする機会が増えています。そこで「知的財産権」とはどういうことなのか、なぜいまクロ-ズアップされているのかを調べてみました。

 

1.知的財産権

知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の総称であり、新技術、新しいデザイン、商標などについて独占権を与え、模倣防止のための保護、研究開発へのインセンティブ付与、取引上の信用維持を目的としています。

 

商標権以外は、出願して一定年数経てば権利が消滅するのに対し、商標権は10年経てば更新が可能です。これは信頼を得るため企業努力が必要であること、損害が出ると消費者からクレームがあり、それを放置すると消費者被害が拡大するため、企業のリスク管理が必要となるためです。権利は、著作権のように自然に発生するものと、出願・審査・登録を必要とするものがあります。

 

 

知的財産権1.gif

 

知的財産権表.gif

 

 

*特許権は、アメリカは先に発明した者に権利があるとする先発明主義だが、その他の国は先願主義(先に特許庁に出願した者に権利がある)をとる。

特許権で保護する対象:モノ、方法、物質、ソフトウェア、ビジネス方法、ゲノム等

*意匠権 デザインは、不正競争防止法でも保護(他人の商品の形態模倣を禁止)される

*商標権で保護する対象:社名・商品名、サービス・マーク、原産地表示等

*著作権で保護する対象:音楽、絵画、文章等、ソフトウェア、データベース等

 

 

2.歴史にみる知的財産権 

ヨーロッパ 
世界最初の特許制度はヴェネチア

世界最初の特許制度は、1474年ヴェネチア共和国発明者条例で、技術独占の仕組みとして始まり、この制度によって新しい発明が相次ぎ、イタリア・ルネッサンスに大きな影響を与えました。ルネッサンスはフランス、ドイツなどにも広がっていきましたが、イギリスは遅れをとっていました。そこで、イギリスで1624年に現代の特許法の基になる「専売条例」が制定され、最新技術の導入のためにイギリス以外の人の発明に対しても独占権を与えられ、それが産業革命へとつながっていきました。

 

特許権を国際的に保護するため締結されたパリ条約

特許制度はフランス、イタリア、ドイツでも制定されていきましたが、ある国で特許権が認められた技術であっても、他の国までは権利が及ばないため、発明が模倣され大きな問題となりました。特に1850年代にロンドンやパリで開かれた万国博覧会では、博覧会の参加各国から、発明の権利が国際的に保証されなければ新しい技術を安心して出展できないとの意見があがりました。そこで、特許権を国際的に保護するパリ条約(工業所有権に関する国際条約)が1883年に締結されました。

 

 

アメリカ

'70~80年代にかけてアメリカは貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」に陥り、さらに経済のソフト化、サービス化、市場の国際化が進み、企業の多国籍化による国内製造業の空洞化が問題となりました。しかし、ソフトウェアや宇宙開発など最先端技術に関してはアメリカが突出していました。そこで、レーガン政権は「アメリカの科学技術こそが、産業の国際競争力を高め、技術的優位性を維持することを可能にできる」との考えから知的財産権を保護強化する、プロパテント(特許重視)政策を示しました。さらにソフトウェア、半導体回路配置、トレードシークレットなどの知的財産権に関連する法律を整備し、特許登録までの期間を短縮するため、特許審査官の倍増や特許専門の裁判所を設立するなど、行政と司法の両面で知的財産権の強化を行いました。

 

'90年代以降、アメリカはIT、バイオ分野などの特許により、世界中から巨額の特許ライセンス料を獲得しました。

しかしながら世界各国では保護制度が違っていたり、保護制度が未整備の国もあるため、アメリカは知的財産権の強化策を世界的に浸透させる方法として、GATT/ウルグアイラウンドにてTRIPs協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の必要性を提起するなど国際的なルールの確立を強く推進していきました。その結果、'95年、WTOの設立と同時にTRIPs協定が発効しました。

 
 
日本 

'80年代のアメリカが、プロパテント政策をとっていたのに対し、キャッチアップ型の日本はそれとは逆のアンチプロパテント政策がとられていました。しかし、'87年、ミノルタがアメリカのハネウエルに、一眼レフカメラの自動焦点技術の特許を侵害していると訴えられ、約140億円で和解が成立。

また、中国では日本製品の偽ブランドのバイクが流通、さらに日本は人件費ではアジア諸国に負けるため、産業の国際競争力を強化し、経済を活性化していくためには、研究・創造活動の成果を知的財産として戦略的に保護・活用していくことが必要となりました。

そこで知的財産戦略会議は、'02年に知的財産戦略大綱を取りまとめ、その中で「知的財産立国」を目指す方針が発表され、知的財産基本法が制定されました。また、特許法、著作権法、不正競争防止法等の改正、民事訴訟法等の改正、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」の決定(平成15年7月)など、知的財産立国に向けた環境整備が進んでいます。  

 

 知的財産権2.gif

 

 

推進計画の主な内容

・大学の知的財産本部・TLOの整備、大学発ベンチャーの促進等
  *TLO(Technology Licensing Office):大学や研究所から生まれる技術・研究成果を民間等へ移転される機関
・特許審査迅速法(仮称)の制定
・紛争処理機能の強化(知的財産高等裁判所の創設など)
・模倣品・海賊版対策や水際措置の抜本的強化
・知的財産の管理及び流動化の促進に向けた信託制度の活用
・企業の知的財産戦略指針、特許・技術情報に係る情報開示指針等の策定・普及
・大学等における知的財産教育の推進(知的財産に重点を置いた法科大学院等の設置等)

 

 

 

3.知的財産権についての国際的な動き

経済発展と密接に関係している知的財産権については、今までに条約等がつくられてきましたが、世界統一の権利はなく、権利は各国法によりそれぞれ独立しています。

 

パリ条約 

1883年に締結された最古の知的財産権保護条約、特許・商標などの工業所有権の保護に関する条約

 

ベルヌ条約(著作権の統一的保護に関する条約)

1886年締結された、文学・美術作品の保護に関する条約

 

WIPO (世界知的所有権機関)

・知的財産権の国際保護問題について検討する国連の専門機関

・80年代後半より、世界の統一特許法条約の締結に向けて議論が重ねられ最終合意にまで達したが、米国の反対により結局採択されていない。

 

WTO/TRIPs協定 

'95年発効。著作権、商標、地理的表示、意匠、特許など知的財産権保護の最低水準を定め、さらにこれまでの知的財産権関連の国際協定には見られなかった権利行使の手続、紛争解決手続についても規定しています。違反すると経済制裁が発動でき、貿易交渉項目として知的財産が使われるようになりました。

 

 知的財産権3.gif

 

 

TRIPs協定の発効後、知的財産権の価値は増しています。そんな中、知的財産権をさらに保護していきたい先進国と、発展途上国の間に新たな問題も生じています。

例えば、発展途上国でエイズやマラリアなどの感染症治療のために使う医薬品が特許制度により高価になったり、コピー薬の生産・使用・輸入等が制限される結果、医薬品アクセスを阻害しているとの指摘があります。

この問題については、'01年ドーハ閣僚会議において「TRIPs協定と公衆の健康に関する宣言」が採択されました。これにより、医薬品を生産する能力がある国については、強制実施権(一定の条件下において特許権者の許諾を得なくても特許発明を使用することができる制度)の利用により、特許に係る医薬品を生産することが可能になりました。

しかし、自国で医薬品を生産する能力がない国はどうするか問題です。

 
 
 

4.日本における知的財産権の問題 

 

偽ブランド品の流通

多くの日本人が好きなブランドは商標権があり、保護されるべきものですが、日本では偽ブランド品が数多く出回っています。例えばあるブランドは品質がレベル以下のものはすべて廃棄するにもかかわらず、なぜかアウトレット商品が販売されていたり、工場には販売権は与えられていないのに「工場直送のブランド品」が出回っていたりします。また、インターネット通販では、商標権者が写真を見ただけで偽ブランド品とわかるものが多数あるそうです。しかし中には、スーパーコピーといって、本物との見分けがつかないほど精巧な偽ブランド品も流通しているとか。

 

知的財産権4.gif

 

商標権保護のためには、税関などでの水際の取り締まりと検挙が重要ですが、近年不正商品は国際郵便や個人手持ち輸入などの形で小口化して行われるため、その摘発は困難となっています。また、輸入貨物は13万件/年あり、全部を検査することは不可能です。そこで、商標権者は書類による申し立て制により情報提供を行うことで、疑わしい分について優先的に検査が行われるようになっています。

'03年の税関における知的財産権侵害疑義物品の輸入差止件数('04年4月財務省発表)は前年比6.2%増加の7,412件、差止点数は22.3%の減少では約77万点。件数では韓国が最も多く、点数では中国からの貨物の差止件数が約3倍と大幅に増加し、差止件数全体に占める割合は前年の7.9%から22.0%と大幅に増加しています。

 

知的財産権侵害疑義物品の輸入差止実績

差止件数(件)                                  差止点数(万点)

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仕出国(地域)別差止件数実績構成比(件数ベース、単位:%)

知的財産権グラフ2.gif

 

仕出国(地域)別差止件数実績構成比(点数ベース 単位:%)

知的財産権グラフ3.gif

 

 

権利別差止件数は、バッグ類等につけられた著名ブランドなど商標権に係るものが圧倒的に多く、7,332件で全体の98.7%、携帯電話用ストラップ等に使用された人気キャラクターなど著作権に係るものが80件でした。

 

権利別差止件数実績構成比(件数ベース、単位:%)

知的財産権グラフ4.gif

 

権利別差止件数実績構成比(点数ベース、単位:%)

知的財産権グラフ5.gif

 

 

最後に

 

違法品を輸入して、それを販売することは違法となります。しかし日本国内では、違法な製品を違法と知って購入しても罰せられることはなく、偽ブランドと知っていて購入する消費者もいます。

また、千葉県では'04年4月、「ルイ・ヴィトン」や「エルメス」など海外有名ブランド店が商品を入れるロゴ入り紙袋を自社工場で加工、「あなただけのバッグ」と称して、インターネットオークションを通じて販売していたとして、和歌山県に住む容疑者をブランドの商標権を侵害した疑いで逮捕しました。こうした「リメーク品」をめぐる商標権侵害容疑での逮捕は全国初のことです。「リメーク品」にしろ、偽ブランド品にしろ、これらを購入する消費者がいることもまた問題です。

フランスでは、商標権を侵害した商品を購入した人も法律で罰せられるというように、消費者も知的財産権の保護をする努力が求められています。日本でも、もっと多くの人が知的財産権についての認識を高め、その権利にただ乗りすることを許さないようにする意識づくりが必要ではないでしょうか。

 

参照 

・財務省ホームページ   http://www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/ka160415.htm
・'04年2月20日 NACS九州支部「知的財産権セミナー」
    講師 (財)製品輸入促進協会 輸入品情報室 棚澤葉子氏