2003年 04月 25日
原稿執筆者:消費生活アドバイザー 野口 博子
近年、集団食中毒の発生や様々な食品への異物混入、国内でのBSE感染牛の発見、輸入野菜の残留農薬問題、そして次々に発覚する食品偽装事件と食品をめぐる問題が多発し、消費者は食品行政・食品産業に対して不信感を持っています。
特にBSEについては、日本がEUの調査を拒否し、国際獣疫事務局の勧告を放置していたことがわかり、行政が消費者保護よりも生産者の利益を優先していること、危機管理の意識が欠けており、事故を未然に防ぎ、リスクを最小限に抑えるシステムが欠如していることが明らかになりました。
また、海外では食品の安全には「絶対」はなく、リスクを前提に制御するという考えが一般化しており、リスク評価機関 -フランス食品衛生安全庁(1999)、欧州食品安全機関(2002)、ドイツ連邦リスク評価研究所(2002)など- が設立されています。
そこで食品の安全性を確保するため、食品安全基本法の制定、食品の安全性の確保に関する個別法の改正、食品安全委員会の設立、「リスク分析(アナリシス)」の導入といった食品安全行政の改革がなされることになりました。
・化学物質系評価グループ
食品添加物、農薬、動物用医薬品、器具・容器包装、化学物質、汚染物質等
・生物系評価グループ
微生物 、ウイルス、 カビ毒・自然毒等、プリオン(BSE等)
・新食品等評価グループ
遺伝子組換え食品、新開発食品、飼料・肥料等
「リスク分析(アナリシス)」とは、
の3つの機能から構成されます。
BSE発生以前のイギリスでは、リスク評価とリスク管理が明確に分かれておらず、産業界よりで、きちんとした評価ができませんでした。
そこで、図1のようにリスク評価とリスク管理を分け、透明性、独立性、卓越性を持たせます。さらにこれらが適切に実施されるだけでなく、消費者への説明、「リスク認識」への考慮(表1参照 リスク評価が科学的・客観的な危険度を説明しても、消費者の心理的・主観的な危険度とはかけ離れる場合が多い。科学的にみて安全であると言われても、それだけでは消費者は安心とは感じないので、それに対する配慮が必要である)といったリスクコミュニケーションが行われることが重要になります。

表1 リスク研究者Starrによる一般的なリスク認識

'01年イギリスのリスク評価機関 食品基準庁(FSA)は、BSEに感染した羊がいることを公表しましたが、その後すぐその検査は牛の脳と取り違えた間違いだと訂正しました。
イギリス国民は羊がBSEにかかるかどうか気にしたため、FSAは羊BSE問題のQ&Aを示し、羊肉パニックは発生しませんでした。
これはリスク評価に関するリスクコミュニケーションが成功した例といえます。
逆に'00年フランスでのBSE危機は、リスク管理に関するリスクコミュニケーションの失敗例です。
これはBSEが発見されると一緒に飼っていた牛群を処分するが、その牛群から既に検査をパスして出荷された牛を、農業省がもし出荷の順番が遅かったらその牛も処分対象となったであろうと、トレーサビリティにより回収しました。これを新聞が、「牛肉の回収が始まった」と報道したため、回収の説明を聞いていない消費者に誤解や不安が生じ、結果牛肉の消費が落ち込みました。
これらの具体例からわかるように、食品安全行政の改革には、適切なリスク評価とリスク管理による安全の確保、適切なリスクコミュニケーションによる安心の回復が重要といえます。
しかしながら、消費者に対してわかりやすい説明を行うことは、食品に限ったことではありませんが、容易なことではありません。消費者の立場に立った説明を行うことが望まれますが、食品安全委員会は専門家で構成されており、一般消費者は入っていません。専門家と消費者の間のコミュニケーションギャップがあることを認識した上で、消費者に向けて適切なリスクコミュニケーションが行われるためには、消費者を巻き込んでの検討が必要なのではないでしょうか。
参考)国民生活センター 平成14年度消費者活動リーダー支援講座('03 3.7)
「食品安全と新たなリスクコミュニケーションシステムの動向」
東京大学大学院農学生命科学研究科中嶋康博助教授