2006年 10月 28日

まず、父親が産婦人科の開業医で、自然と同じ道に進みたいと思うようになりました。
-でも先生は麻酔科のご専門でもいらっしゃいますよね。
子どものころ、分娩室から産婦さんの叫び声を聞いたのがずっと頭に残っていました。
でも、このお産の痛みは当たり前なんだろうか。
この痛みを和らげることはできないだろうかと思い、産婦人科に行く前に、まず麻酔科に進んだのです。
-麻酔科としてのご経験が、産婦人科でどんなふうに活かされたんでしょうか。
これまでのお産の常識を、麻酔科という違った角度で見て考えることができたのは大きいですね。
大学病院で麻酔科から産婦人科に移って気になったのは、生まれたばかりの赤ちゃんが紫色で寒そうにしていたことです。
麻酔科では、患者さんの体温はもちろん、顔の表情や筋肉の緊張など、体の変化を細かくチェックするのが当たり前でした。
そんな私の目からは、この赤ちゃんは、寒がっているように見えたのです。
そこで、自分が担当の赤ちゃんを適切な温度(32~34℃)に保った保育器に入れたところ、生まれて15~30分くらいには赤ちゃんはピンク色になり、指を吸いはじめ、
生後1時間目には、嘔吐もなく上手に糖水やミルクを飲めるようになったんです。
例えば、新生児の黄疸や体重減少。
どうしても当たり前のことだとは思えず、「赤ちゃんからの訴え」に耳を傾け、データをとり、分析・研究を続けてきました。
その結果、10%以上も体重が減少するのは、決して生理的現象ではなく低栄養状態だということ、生後数日間の栄養不足が黄疸を強くする原因で、早い段階で赤ちゃんに栄養を与えてあげたら重症黄疸を防ぐことがわかったのです。
日本では、重症黄疸の治療(光線療法)は10人に1人くらいと思われますが、当院では開業以来21年間、10,000人に9人、つまり1,000人に1人です。
しかも、発達障害の危険因子である"ビリルビン値20mg/dl以上"の重症黄疸は10,000人中1人も出ていないんです。
妊婦さんの食事や生活の不摂生は、肥満や便秘、そして子宮収縮を起こし、ひどい場合は赤ちゃんが大きくなりすぎて難産になったり、早産や妊娠中毒症(*)につながるなど、未熟児が増える要因を作り出しています。
でも、食生活の改善と水中運動で、これらは予防できるんです。
陸上での運動と違って、水中散歩は妊娠中毒症の予防や治療にもなり、未熟児を少なくすることができます。
足がむくんだり、血圧の高い妊婦さんには、まず温水プールでの水中散歩をすすめるんです。
すると、おしっこがたくさん出て、むくみがとれて血圧も下がり、すぐに妊娠中毒症の予防効果が出るんですよ。
驚くことに、この21年間、当院で出産された10,000人のうち、約4,000人の方が水中運動に参加されましたが、もっとも恐ろしい胎盤早期剥離(早剥)の症例は0人で、水中運動をしなかった6,000人のうち21人、約300人にひとり(全国平均)に早剥が発症したのです。
水中運動をした方たちに妊娠中毒症や早剥がどうして出ないのか?
そのメカニズムを考えて、それが妊婦さんの安産につながるかと思うとワクワクするんですよ。
(*)妊娠中毒症という名称は、平成17年4月から、妊娠高血圧症候群に変わりました。
無痛分娩にはいくつか種類があります。
当院で、6,000人以上の産婦さんに行っている陰部神経ブロックという無痛分娩は、もっとも痛みがはげしくなる、分娩第2期の赤ちゃんが産道を降りてくるときだけに効く局所麻酔で、全身麻酔と違って産婦さんの意識ははっきりしており、母子ともに副作用もなく安全性に優れているんですよ。
産道や会陰の痛みを100%取って、陣痛(子宮収縮)の痛みは実感できる、おすすめの産科麻酔法です。
さらに産道の筋肉を緩めて赤ちゃんがスムーズに出てくるのを助ける安産効果にすぐれているため、会陰切開や裂傷も少ないのも特徴です。
がまんできない痛みのせいで、産婦が過呼吸になると胎児仮死の原因となる低酸素血症を招くことがあります。その予防の役割も果たすこの麻酔法は、痛みをとりながら、赤ちゃんを守っているといってもいいかもしれませんね。
当院では、痛みから母子を守るために陰部神経ブロックは欠かせないものなんです。
他の方たちも同じですよ。
それだけみなさんに産科麻酔についての情報がきちんと伝わっていないということなんでしょうね。
当院の母親教室で、無痛分娩の種類・方法を話した後に、妊婦さんが希望するお産についてアンケートをとったら、陣痛の痛みはある程度経験したいという意見が大多数で、ほとんどの方が、陰部神経ブロック法を望まれるんです。
妊婦さんからの声を聞くことで、この方法が理想的だということを再認識できました。
ほどほどの陣痛(子宮収縮の痛み)を感じながら、赤ちゃん誕生の瞬間を見ることができて、とても満足していただけるようです。
安産で、満足のいくお産をすることは産婦さんの自信につながり、それはその後の子育てにもいい影響を与えるんですよ。
診察時間内では限られているので、私の思いがうまく伝わらない場合もありますが、母親教室ではそれを伝えることができます。
また、妊婦さんから、教えてもらうこともたくさんあるので、母親教室は私にとって貴重な勉強の場なんです。
今、夫婦が協力してお産に望み、子育てするお父さんやお母さんたちを見て、いい傾向だなと思っています。ただ、働く女性が増えてきて、平日の母親教室に参加できない方もいらっしゃいます。
働く女性は、食をはじめとする生活習慣が不摂生になりがちなのに加え、運動不足だったり、過度のストレスがかかる人も多いのではないでしょうか。
妊娠中は時短勤務を取り入れたり、休みを取りやすくするなどもっと妊婦支援をして、社会全体で、妊婦さんが安心して子どもを産める心身ともに快適な環境作りをしていかなければいけないと思います。
私は、妊婦支援こそが少子化対策の第一歩だと考えています。
常に妊産婦さんや赤ちゃんの声に耳を傾けて、熱心に研究を続けている久保田先生。
最近では、SIDS(乳幼児突然死症候群)について、予防医学の視点から新しい仮説を発表するなど、お産以外の研究にも力を注いでいます。
その姿からは、もっと多くの人たちに、安産や予防医学について理解を深めてほしいという思いが伝わってきます。
また、充実した医療と同時に、サービスにも力を入れている久保田産婦人科医院。
第二子を妊娠したときに上の子を預ける場所に困っているという患者さんの声を聞いて、院内に託児ルームを開設。
過去に出産した患者さんを対象に意識調査をするなど、常に「患者さんにとって何が一番よいのか」を考えている姿勢が、妊婦さんたちに支持される理由なんですね。
病院データ 院 名 医療法人KMC 久保田産婦人科麻酔科医院 |