2016年2月 江の浦海苔本舗
2016/03/01
今回のご出演は福岡県みやま市の「江の浦海苔本舗」さんでした。
写真は代表の森田修司さん。
もとは家業を継いで海苔漁師をされていましたが、市場に出回る海苔の不味さに気づき、海苔本来の美味しさを消費者に届けたいと、海苔の加工・販売業「江の浦海苔本舗」を始められました。
「奇跡の海」有明海で育つ海苔
みやま市が面している有明海には、阿蘇山や九重連山など多くの山々の森の恵みをたっぷり含んだ河川がたくさん流れ込んでいる。
また干満の差が大きくて干潮時には何キロも先まで干潟が現れる。
栄養豊富な干潟の泥は田畑の肥料としても使われるほどで、多種多様な生き物や、ここにしかいない独自の生き物が生息しており、「奇跡の海」と呼ばれている。
この有明海で海苔養殖が始まったのは戦後と比較的新しいが、日本一海苔づくりにむいている。
なぜなら、海苔は種付けをした網を海に立てた支柱に張って育てるが、有明海の干満差は最大6mもあり、満潮時には海中で栄養を吸収して大きくなるし、干潮時には太陽の光と風にさらされて病気になりにくく、健康に育つことができるから。
有明海苔の特徴は柔らかいこと。そのまま食べて美味しい。
海苔本来のおいしさを届けるために
ある時気づいたのが、市場に出回っている海苔が美味しくないということ。
当時海苔漁師だった自分たちが普段食べている海苔とは別物だった。
そこで、海苔本来の美味しさを消費者に届けなければいけないと考え、海苔漁師をやめて、海苔の加工・販売業を始めることにした。
焼き海苔は焼きたてにこだわり、注文を受けてから焼いて出荷している。
賞味期限も半年と短くしている。
1年や1年半の賞味期限を設けている他社商品があるため、消費者も「海苔は乾物」と考えるむきがあるが、海苔本来の香りや旨味を味わうには、焼き立てであることが大切。
乾燥剤もあまりあてにせず、封を開けたら早めに食べきること。
♪試食タイム♪
江の浦海苔本舗さんの海苔2種類を食べ比べました。
一つは焼きたての一番海苔、もう一つは江の浦海苔本舗設定の賞味期限が昨年11月に切れた、同じ一番海苔。ただし他社の同様の商品では十分に賞味期限内のものです。
比べてみると焼き立ての海苔のほうが風味が断然良いことがわかり、驚きの声が上がりました。
海苔はどう作られるか
海苔は春に「果胞子」(かほうし)と言われる種をつけるので、特に良い海苔を選んでミキサーにかけ、水を張った水槽にカキ殻を並べて振りまく。
すると果胞子が殻の隙間に入り込んでいき、そこで夏から秋にかけて成長する。
その間、水が汚れたり栄養不足にならないように、殻を洗ったり海水を交換したりして世話をする。
気温が下がってくると一斉に胞子を出すので、タイミングを見定めて水槽に網を入れ、胞子を網につける。
こうして種付けをした網を、海中に立てた支柱に張り、海苔の成長を待つ。
種付けから30日~35日で最初の収穫ができる。
これが「一番海苔」「初摘み海苔」と言われるもの。
アミノ酸の含有量も多く、旨味も栄養もたっぷりで美味しい。
摘んだ後も海苔は成長を続け、10回目くらいまでは収穫できる。
ただし、2番目以降の海苔の風味や旨味は、一番摘みにはどうしてもかなわない。
先に海へ張った“秋芽”と呼ばれる網は収穫を終えたら引き揚げる。
そして、種付け後に冷凍保存しておいた新たな網を設置する。
これが12月ごろで、最初の収穫がちょうど年末年始のあたりになる。
日差しが優しく海の栄養分も豊富な時期なので、この2度目の「一番海苔」が最も美味しい。
今の生活様式にあったデザインで、福岡デザインアワードを受賞
海苔のパッケージにはどんなものがあるか、全国で販売されているものを調べてみたところ、総じて昔ながらのもので、これでは今の食卓に似合わないと実感した。
そこで、パッケージを今の生活様式に合うようにデザインした。
太陽の日差しや穏やかな海といった、有明海の恵みを具象化したデザインが好評で、2012年に福岡デザインアワードで優秀賞を受賞した。
贈り物にする際にも喜ばれている。
参加者との質疑応答
自宅で海苔を焼くときのコツを知りたい。
パンを焼くオーブントースターを使うのがおすすめ。片面2秒程度を裏表あぶると良い。ただし、保存状態によって海苔が持っている水分が違ったり、海苔漁師さんによって同じ1帖でも重さ・厚さが違ったりするので、2秒というのはあくまで目安。色の変化をよく見て、きれいな色になったら加熱をすぐに止めること。「焼き一生」などと言い、海苔を焼くのは意外と難しいもの。美味しい海苔を目指してチャレンジを。逆に、あまり考えこまず、パンに海苔、チーズ、サラミなど載せて焼くのも、香ばしい海苔を楽しめておすすめ。
天日干しはどうか?
試してみたが、乾燥機を使った場合と味は変わらなかった。イメージはよいが、湿度・温度の管理が難しく、雑菌繁殖などの不安がぬぐえない。
海苔の養殖は薬を使うと聞いたことがあるが?
病気が増えないようにクエン酸を使うこともあるが、有明海は干満の差が大きく、海中から出て日にさらされる間に日光消毒されるのであまり必要ない。海外産の海苔の中には無機酸を使ったものもあるそう。無機酸は安くて殺菌力が強いが周辺環境へ与える影響が大きいため、日本では使用が認められていない。
業者によって賞味期限が違うとのことだが、決まりはないのか?
検査機関による検査はクリアした上で、美味しく食べられる期間の範囲をどう考えるかは業者によって異なる。
保存はどのようにするのがよいか?
冷凍保存が良い。温度変化を受けると湿気を呼ぶので、初めから一度に食べる分量に分けてジップロックのような密閉できるものに入れ、冷凍庫の奥の方へしまう。食べる時は2、3時間前に出し、常温で戻してから封を開けること。
海苔は身体にいい?
宇宙食の一つに選ばれるほど栄養バランスが良い。残念なことに欧米人は海苔を消化する酵素を持っていないらしく、海苔を食べて栄養を摂ることができるのは日本人ならでは。
「炊海苔」(たきのり)というものは初めて食べた。
これは江の浦海苔本舗のオリジナル商品。とはいっても実は海苔漁師は昔から食べていたもの。破れなどで商品にはならない海苔を、ちぎって炊いて味付けをしたもので、ほぼ海苔100%。海苔の食感や香りなどを十分に味わっていただければと思う。
どこで購入できるか?
福岡では博多リバレイン2Fの「D12」、JR博多駅新幹線改札内構内の「九州恵みの玉手箱」の他、地元みやま市の店舗で販売している。江の浦海苔本舗HPからネットで購入もできる。
【 江の浦海苔本舗HPオンラインショップ 】
http://enouranori.shop-pro.jp/
感想などアンケートの声 (一部)
- 何気なく食べていたが、海苔づくりの深さや微妙さに驚きました。誠実な商品づくりに感心しました
- 賞味期限へのこだわりなど他社との違いを感じました。利き酒ならぬ利き海苔で、それぞれの味の違いがよくわかりました
- 実にがんばっていらっしゃることがよくわかりました
- 初摘みから10段階まであることや、海苔の保存方法等、初めて知りました
- なんとなく食べていた海苔に大変な手間がかかっていたことを知りました
- 海苔の製造工程など、初めて聞くことばかりで、奥が深いな~と思いました。森田さんの海苔づくりにかける情熱が伝わってきました
- 海苔は奥深いものと、本当に初めて知りました。デリケートな品であることも学びました。
- 海水温で海苔の成長や味に大きな影響があることがわかりました。